シンガポールでは、有休と病休は別腹でして
これまた久しぶりのシンガポール現地採用エッセイは、休むことについて。
シンガポールの雇用は、完全契約社会。契約書に書いてあることを守らないと、すぐクビになるし、反対に契約書に書いていないことは一切しなくていい。
新人の朝の掃除とかゴミ捨てとかお茶くみとかね!
お休みに関することも、きっちり雇用契約書に盛り込まれている。
現地採用だったら、有休は1年めは14日〜16日くらいだろうか。これは事前に申請すれば、ほぼ取得できる。「その日会議なんだけど!」とか無視。それどころか「あ、有休なんだ。じゃあ会議またにしよっか」くらいのゆるさ。
ただし私はサービス業だったので、人が休む時が稼ぎ時。クリスマスや独立記念日なんかの大売り出しの前後は、シフト表が全員大きくブロックされていて「この期間は連休を取らないこと」と注意書きがあった。そりゃそうだ。それ以外の期間だったら、1周間や10日間の旅行休暇をサクッと取ってた。
その有休とは別に存在する休暇制度が、MCと呼ばれる病休。Medical Certificate(通院証明)の略で、頭が痛い、おなかが痛い、風邪ひいた、っていう時には、朝イチで町のクリニックに行く。そこでささっと診察を受けて、必要であれば薬と一緒にこのMCを発行してもらい、家に帰って寝る。
このMCはだいたい年14日くらいもらえる。有休も圧倒的効果を発揮するけど、MCはさらにすごくて「あ、彼女今日はMCなんだ。うんしょうがないね」ってさ。こんな風に、シンガポールにおける労働者の権利はガッチリ守られている。
そうは言ってもジャパニーズ!
このMC、シンガポーリアンスタッフは光の速さで消化していくけど、やはり日本人の心情としてはやりづらいこともある。MCで休まれて、人手不足で現場が混乱するのを肌で分かっているから。
気にしなければいいんだけどね!
1年目はゲホゲホむせながら出勤してたけど、2年目、3年目は年間10日以上消化できるようになったよ!
ちなみに有休は翌年に繰り越せて貯めることができるけど、MCは使わなければ消失してしまうので、やっぱり使った方が得、っていう労働者の弱い心が動く。
こんな風に、私はシンガポーリアンスタッフに準ずる雇用形態だったのでMCも有休も使っていたけど、駐在員は大変そうだった。
日本から出向で来ているとはいえ、シンガポールの労働条件で働くので、有休もMCも取得する権利はある。でも取らない。
周りも気にしないし、日本の本社はそこまでくまなく見ているわけでもないけど、取れない。
堂々と休みますって、まだまだ言えないよねジャパニーズ。
職場でケンカしてMC取った
2年目、3年目と順調に有休とMCを消化していた私だけど、これにはひとつのきっかけがあった。
まだMCを一度も取ったことがなかった1年目、熱があって関節が痛くて、喉も痛くて超しんどいまま出勤した日。
休憩時間に休憩所のテーブルに突っ伏して休んでいたら、いきなり先輩に叩き起こされた。
なんだったっけ、私の担当部門に関する問い合わせで、お客さんが来てるとかなんとか。
「私、休憩中なんだけど!風邪ひいて熱あるんだけど!」
普段はごはん食べてようが休んでようが、聞かれたらなんでも答えてたし、手伝った。しかしこの日だけはホントしんどかったんだ…。
そしたら、勤続15年のベテランシンガポーリアンにこう言われた。
「辛いんならMC取ればよかったのよ!MC取らずに仕事するって選んで来たのは自分でしょ!来たからには仕事しなさいよ、しないんだったらとっととMC取って帰って」
なるほど。
すとんと腑に落ちた。
5分後にMC取って、そのまま病院に行って帰ってよく寝た。
無理して仕事に行ってイライラしてるよりも、いない方がいいこともあるんだな。
ーーー
『やあみんな、MC取ってる?MCは労働者の権利!えええ、会社がMC取らせてくれないって?今すぐ労働省ホットラインへ電話だ!』
笑顔の男女とキャッチコピー、ホットラインの電話番号が載ってる地下鉄の広告。
働き方にまつわる考え方というかものの見方というか、ムダに抱えてたものをどさっと手放すことができた気がする。