28歳新卒フリーター女もシンガポールで就職してみた 11

第5章

2014年7月、シンガポール在住3ヶ月目にして2社目となる新しい仕事がはじまった。

2社目はシンガポール国内に4店舗ある本屋さんで、そのうちの1店舗が私の職場だ。広々とした店内に、英語で書かれている洋書、中国語で書かれている中文書、そして私の配属された日本語で書かれている和書があって、文房具コーナーもあった。和書チームは私を含めて4人、店舗全体で20人くらい所属していた。

入社当時の売り場に日本人は私だけで、上司も先輩も、ほぼ中華系シンガポーリアンだった。本が好きな人に嫌な人はいない、というのは本当だと思う。

ひとりで外国に来てそのまま住み着いた私に、親切とおばちゃん的おせっかいに満ち溢れた指導で、ひとつひとつていねいに仕事を教えてくれた。

制服を着てエプロンをつけて、レジを売って、本と雑誌を並べて、季節ごとに入れ替えるフェア展示をやって。
日本の本屋の店員さんのイメージそのままの、穏やかな業務内容だった。

シンガポールは転職することでキャリア形成をする社会だ。job hoppingといって、1年か2年でヤドカリが背中にしょった貝殻を取り替えるように、ひとつの職場でくるくると人間が入れ替わる。
だから、ひとつの職場に3年在籍するとベテラン扱いだ。有能な人材には引き抜きオファーがひっきりなしで、ひとところには留まらないもの、という感覚。
日本と大きく異なる感覚。

そんなシンガポールで、うちの売り場では10年選手に15年選手が中堅、さらには30年選手まで現役バリバリだった。すんごい腰曲がってる洋書担当のおばあちゃんも、スローに動いておしゃべりはきびきびだった。
居心地の良い会社なんだろうな、と思った。

居心地がいいといえば。
働き始めるうちでカルチャーショックはいくつもあった。転職すればするほど評価される社会とかね。
しかしもっと近場で日常のなかで驚いたのが、掃除のおじちゃんとおばちゃんが毎朝来て、掃除や片付けをして、お昼前には帰っていくこと。
簡単な店内清掃やゴミ出しなんかは、日本の小売店だったら新人の仕事に割り振りされる気がする。勝手に。
もしくは当番制で、順番がやってくるか。

それがなかった。
掃除のおじちゃんとおばちゃんは週7日やってくる。基本的に休みなし。半日以下の短時間勤務だから大丈夫なのか。どうなんだろうか。
詳しいことは知るすべもなかったが、とにかくスゲーありがたかった。おじちゃんとおばちゃんに毎朝感謝した。私は掃除がとても苦手でセンスがなくて、どんなに必死こいて集中して掃除をしても、ベテラン勢にやり直しをくらっていたから。

そして、なぜシンガポールで掃除やゴミ出しが新人の業務に割り当てられないかというと、答えはシンプルで「雇用契約書に記載されてない項目だから」

出勤して5秒で自分の仕事に取り掛かることができるって素晴らしい。もしも洋書のおばちゃんや中文書のかわいこちゃんに手伝ってくれ、と言われても断ってもいい。「それ、私の仕事じゃないから」と。

その反対に、自分の仕事は自己責任。終わるまで帰れない。
なので、「今日は終わらなそうだな」と思ったら早めに切り上げて翌日に回してしまえばいい。

残業も休日出勤も極刑、という共通理解がある職場で本当によかった。退勤時間過ぎて1分以内にみんな帰り仕度をする。
これもカルチャーショックにして感動だった。

「退勤時間に退勤する」
当たり前のことを当たり前にしているだけなのに、それだけで日本で日本人としての生きづらさを思い知った。

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働きはじめて2週間くらい経ったころ、新しい友達ができた。文房具売り場のリカちゃん(仮名)。

リカちゃんはシンガポールで生まれて育った日本人で、同い年だという偶然にも恵まれて仲良くなった。
それまでは、基本的にひとりで過ごして、たまーにししもんさんやシンガポール友人と出かけたり、日本の友達や家族とLINEで会話したり。
仕事帰りに「シンガポールで生活に必要のはスマホのアプリ!」っていう話になって、その場で強制ダウンロード、使い方までみっちり教えてもらった。そのほかにも、社内の人間関係のアレコレや職場で使う英語などなど。

「もう終わった?」ってたずねる時は、Did you finish ~ ? Have you done ~? どっちがいいの、なんていう細かい話まで、とにかくとことん付き合ってくれた。リカちゃんのベストアンサーは「あんまり過去完了のhaveは使わない方がいいよ。シンプルに過去形のDid you ~ ? の方がよく使うかも」だった。
なつかしい会話。

リカちゃんの出現は、その後の私の交友関係を大きく変えてくれた。

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